アータン三宅の何でも聴いてやろう
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ひっそりと、こんなCDがリリースされていた。 映画『赤い鳥逃げた?』(1973年東宝作品)のサントラ盤である。
価格は1300円という信じられないほどの廉価。 でも、買う人はほとんどいないんだろうな。そんな気がする。 映画自体は、さほど優れたものだとは思わない。というより細かい部分が思い出せなくなっている。 おそらく桃井かおり見たさに映画館に足を運んだのだろうが、藤田敏八監督が苦手な 僕としては、いまいち感動できなかったのでは?と推測する。 あるいは、「ただ、死ぬための理由が欲しかっただけ」という映画のテーマにも あまり共感できなかった気がするし。
ま、それはそれとして。 音楽が素晴らしかったことははっきり覚えている。30年以上経った今でもあの音楽だけは はっきりと思い出せる。書いたのは、天才と言われた樋口康雄(通称ピコ)。 まだ20歳になったばかりのTシャツとベルボトムが似合うカワイイ男の子である。 作曲能力と編曲能力に抜きんでていた彼は、村井邦彦や筒美京平と並ぶソフトロックの旗手 として注目されていた。CDに収録された11曲のインストと2曲のヴォーカル曲を聴けば 彼が、バカラックやジミー・ウェッブのフォロワーであることは容易に理解できるが、 彼には、ある種の歪な不整合感を好む性癖があったと僕は思っている。 メロディがこういう風に進行していくんだろうな、と思わせておいて、急にカーブ切って 予期せぬ方向に進んで行ったりするのが特徴で。つまり、読めない展開が多いのだ。 しかも、その不思議な感覚が、一聴すると非常に素人臭く感じられるのが実に樋口的で 面白い。職人と云うより感覚で書きあげる芸術家タイプなのだろう。その辺にハマると ちょっと抜け出せなくなる。今でいうと誰にそういう感覚を覚えるかな? 岸田繁かな?ジャンルは全然違うけど。
「愛情砂漠」という名曲が収録されている。 期待通りのサビが用意されていない、不思議なポップナンバー。 歌っているのは主演の原田芳雄。実にヘタクソなヴォーカルだが、どうしようもなく 1970年代の匂いが漂う歌い方だ。一言でいえば、かったるいテキトーな歌い方。 なのに、メロディとアレンジは極上なのだから、その落差が面白くてくせになる。 当時の深夜ラジオでよくかかっていた歌だが、タイトルを聴いた瞬間に 「負けた・・」、と何故か悔しがったことをよく覚えている。
愛情砂漠を 歩いてきたの
ノアの箱舟 涙をつれて
灼けつく砂もないけれど
人の心は水玉模様
はじけ散るのは夢ばかり
愛は愛でも だましあい
けだるいふりをしてるだけ
いつになったら はたしあい
「愛情砂漠」 詞 福田みずほ
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