ずいずいずっころばし
DiaryINDEXpastwill


2007年03月09日(金) 福原麟太郎と「英文学」とお能

英文学者の福原麟太郎先生を尊敬している。

それは河出書房から出版された小冊子『英文学入門』という名著を読んで以来のこと。
この本は外務省の役人。つまり、外交官になったばかりの人に研修するときに作られた福原麟太郎先生の名講義を記録したものである。

小さな手帳ほどの大きさの本なのであるけれど、こんな名著を読んだことがない。
私の宝物の一冊である。

堅苦しさなどみじんもなく、英文学の楽しさを縦横無尽に語った名調子!
これがやがて諸外国にでるであろう外交官の卵たちに講義されたものではあるけれど、『英文学入門』書と名づけた同じようなあまたの本の中でもこんなに楽しいものは類をみない。

また福原麟太郎先生のお人柄までにじんでくるものである。

さて、それ以来福原麟太郎先生の御著書はどれも読んでみたいと思うようになったのだけれど、先日『芸は長し』沖積舎出版のものを入手した。

これは福原麟太郎先生がお能に造詣が深く、子供の頃からたしなんでこられたことのよしなしごとや、シェイクスピア研究者である先生の舞台芸術に関する随想をしたためたものだ。

読み応えがある本で嬉しい。

これと並行するように福原麟太郎先生の弟子(?)である外山滋比古の『中年記』を読んでいる。

福原麟太郎先生はかの有名な英語雑誌『英語青年』の主幹であった。
その『英語青年』の編集を福原先生から頼まれて引き受けたのが外山滋比古その人である。

戦前戦後の日本の英語事情をからめて外山滋比古の英文学、文学研究と編集、読者論など福原麟太郎先生とのかかわりを含めて語られていてなかなか面白い。

おりしも四月からまた英語の勉強を再開しようと思っていたところだったので、ここで再度福原麟太郎先生の『英文学入門』を再読してみることにした。

面白いことに英文学者でもあった夏目漱石も、福原麟太郎も日本の古典芸能の能楽愛好者であることだ。

さらに興味深いことは<狐>の書評で有名な山村修さんの絶筆『花のほかには松ばかり』では、この能楽愛好者である両者が謡い本について正反対の考え方をしていることである。


シャイクスピア研究者である福原麟太郎先生はシャイクスピアの戯曲を読むものとして受け入れているのに、能楽の謡曲は「読む謡曲」とはしなかったことだ。

一方、漱石は「読む謡曲」としている。

詞章の美しさ、文学性の高さを謡曲の本から感じる私は「読む謡曲」として愛読している。
つまり漱石と同じである。

こんなことなどを比較しながら福原麟太郎関連の本をあれこれ読むのは楽しいものだ。


.

My追加