ずいずいずっころばし
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子供の頃から客人がお見えになるとお茶だしをするのは私の役割だった。
年の離れた姉たちに半ば強制され、嫌な役割を押しつけられたからだった。
母が客間で接客している間、洋菓子を出すか、和菓子を出すか考える。
お客様のランク付けも自分で考える。
ちょっと寄っただけの客か、父の重要な客か、知己かなど。
それによって紅茶、コーヒー、ジュース、煎茶、玉露か等を決める。
和菓子となると虎屋の羊羹などを漆の菓子皿にくろもじを添えて厚めに切ってだす。
虎屋の黒餡の羊羹が大好きな私は残り少なくなると後で自分にまわってこないといけないので、客にはださず、私の嫌いな抹茶羊羹を出す。
ケーキも私の好みのケーキは客にださず、バームクーヘンをこれでもかとばかりに厚く切って客に出す。
でも大好きなケーキしかなく、しかもそれがわずかしかないときなどは、泣く泣くそのケーキを客にだす。いつもはお出ししたらすぐに引っ込む私だけれど、そんな時はそばに立って客が食べてしまうのを恨めしそうな目で眺めているので客もそんな視線に気が付くのか食べずに帰っていく。
さもしい根性の私は後で母にこっぴどく叱られる。
「もう二度とお茶出しなんかしないもん!」と言ってスカートの端を噛みながら泣きべそをかく。
客人はジャーナリスト関係の人が多く、お茶を出す私をつかまえちゃあ、ああでもない、こうでもない、誰それに似ている、似ていないと品定めをしていく。
ある日、玄関に客が来て応接間にいつもの通りお通しした。
「あの〜。お名前をうけたまわりたいのですが?」と母にいつも教えられている通りに言うとその人は「お嬢ちゃん、僕の名前は「すーさん」ですと言えば分かるよ」とおっしゃる。
きまじめな私は母に後で叱られないようにしっつこく食い下がって「あのー。どちらのすーさんですか?」と大人びて言ってみた。
するといたずら好きのこの人はこういった。
「助平のす〜さんだよ、お嬢ちゃん」
私は忘れないように「すけべえのすーさん、すけべえのすーさん」とお経のように暗記しながら、奥へ入って母の顔を見たらほっとして、家中に聞こえるような大声で「すけべえ〜のすーさん」がいらっしゃいました〜〜〜ぁ。と言った。
その後母はしばらく客間に行かなかった。
行かなかったのでなく、行けなかったのだった。
どんな顔をして出ていって良いやら分からなかったのだろう。
子供にお茶だしをさせるからこんなことになるのよ。
以後、私はお茶だし係りから放免された。
番茶もでばなの年頃になっても、私の出番はまわってこなかった。
(*^_^*)
つまり古い言葉で言えば「お茶をひく」ことになったのである。
そうか、それでこの年になってこんなところで「ちゃ、ちゃ」をいれてるのね。(^_-)(^-^)(~o~)
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