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2004年02月24日(火) ■ |
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友情物語 |
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「さとう」
その少年は、しゃがみ込んでグスグス泣いている同い年の友達に、四つとは思えないしっかりとした口調でゆっくりと言い聞かせた。
「さとう。みためがコワくても、なかみもコワイわけじゃないぞ」 「でも、やっぱり・・・ちょっとコワイ」
涙をいっぱいにためた目でじっと自分を見上げる、越してきたばかりの新しい友達に、彼は乏しい表情のままコクリと頷く。
「うん。 なれてないと、コワイかもしれないな。 それに、あんまりわらわないから、おれもほかのひとからコワイっていわれたりするし」 「すずきはコワくないよっ」
怒ったように頬を膨らませる友達に、またひとつ頷いてみせる。
「じゃあだいじょうぶだ。 こいつはおれのトモダチだから。 おれのトモダチだったら、さとうもだいじょうぶだろう?」
淡々と問いかけつつも、鈴木と呼ばれた少年の目にちらと不安の光がよぎる。 それを見て取ったか、佐藤と呼ばれた少年はゴシゴシと涙をぬぐって、コクリと大きく頷いた。
「うん。すずきのトモダチなら、おれも・・・コワくない。 まーくんのこと、コワくないよ」
涙でくしゃくしゃになった顔のまま、ニコッと笑みを浮かべた友達の姿に、鈴木少年はホッとした様に瞬きを繰り返し、行こう、と黙って手を差し出した ―― 。
−−−−−
「・・・って夢を見たんだよ。 なんか、すげぇ久しぶりで懐かしいなーって思ってさ」 「ほう、確かに懐かしいな・・・四つ、だったか?」 「多分そのくらいだよな。 でも、まーくんってのが思い出せなかったんだよな・・・どこの誰だっけ」
うーんと唸って首を傾げる佐藤に、鈴木はポンと手を打つ。
「おお、そういえば」 「ん?」 「昨日来ていたぞ」 突然のことに、佐藤は目を丸くする。 えっ、と短く声をあげると、鈴木に非難めいた視線を送った。
「なんで俺も呼んでくれねぇんだよ」 「佐藤は道場だったからな」 鈴木の単純明快な答えに、納得の佐藤は肩を落とす。 「・・・あー、その頃の時間か」 「うむ。急いで帰らなくてはならなかったらしくてな。 よろしく伝えてくれと言っていたぞ」 「そっか・・・じゃあ、しょうがねぇな」
佐藤は残念そうに息をつき、目の前の建物に意識を向けると、ふと思い出したように問うた。 「ところで、用があるからって言うからついてきたけど、市役所に何の用事なんだ?」 「局長に呼ばれてな」
思わず、ピタッと佐藤の足が止まる。
「・・・局長って、あの?」 「うむ、防衛局の局長だ」 「で、用件って何だよ」 「感謝状が出るらしい。いらないと言ったんだが」 「・・・・・」
田中安田市民の保安と安全のため、日夜業務に励む『地域活動、救援および防災と衛生管理支援局』。略して『地球防衛局』。 (『球』の字が『救』ではないのは、市民からの愛情ゆえであるが、一歩間違えるとホンモノになりかねないという現状もある・・・というのはさておき) 田中安田市にツキモノの『様々』と、切っても切れない関係にある防衛局からの感謝状とは・・・。 貴様、今度は一体何をしやがられましたか。
佐藤の物問いたげな視線に気付いているやらいないやら、鈴木は珍しく重いため息を吐く。 「ただ、顔を知っていたから、声をかけて話をして帰ってもらっただけなのだが。 俺はそんなものはいらないといったんだが、ひとまず、出るものは貰っておけとおふくろが」 「で・・・表彰の内容は」 「魔王撃退、らしいな。 撃退というのは、実に不本意だが」
・・・まあ、確かに鈴木の言ったとおりの事情であれば、鈴木本人にとっては不本意な表彰ではあろう。 しかし。
「あー、知り合いって・・・・・・その魔王とは、お前どこで知り合ったんだ」 「何を言う、お前も友人だろう?」 「いつ」 「件の『まーくん』だ。 昨日会ったと言っただろう」 「・・・」
まさに、知られざる衝撃の事実。
「そうか・・・四歳児の時点で、俺も魔王と友達か」 「違うぞ佐藤」 「何が」 「当時は『ただの魔物』だった。魔王になったのはその後らしいぞ。 友人の成長は、なんであれ微笑ましいものだな」 「・・・・・・・」
嗚呼。 友情とは、かくも偉大で尊いものか。
佐藤はふと空を見上げ、雲の流れを目で追ってみるのであった。
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