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2004年01月03日(土) ■ |
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新年から田中安田市 |
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三年の冬であります。
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新年の初詣帰り、買い物を済ませた鈴木と佐藤がアーケードを抜けた時のこと。 ふ・・・と自分の後ろを見つめ、まばたく鈴木に佐藤が眉をひそめた。 「どうしたんだ?」 「毎年恒例のが来 ―― 」 「えっ?! う、うわーーーーーーーっ?!!!」
鈴木の言葉が終わらないうちに、佐藤の悲鳴が響いた。
『わっせ!わっせ!わっせ!!』 「な、何だ?!!」 「(口を開くと)噛むぞ、佐藤」
謎の掛け声と共に宙を舞う佐藤。 そんな佐藤を眺めつつ、淡々と忠告めいたセリフを吐く鈴木。 そして・・・佐藤を胴上げしている六人の白ずくめが、街の一角で通行人の視線を一身に浴びていた。
白ずくめの六人は、佐藤を三度胴上げするとひょいと降ろし、
『新年、あけましておめでとうございまする!』
妙に古風な物言いをしていっせいに頭を下げる。 「あ、ああ・・・・おめでとう、ございます」 呆然としながら反射的に挨拶を返す佐藤と、へたり込んだ佐藤の隣ですちゃっと手を上げる鈴木に再度一礼すると、謎の集団はすばやく隊列を組んで走り去った。
「・・・・・・なんだったんだ、今のは・・・」 「なんだ、佐藤知らないのか」 「何をだ」 「アレはだな ―― 」
言いかけた鈴木のセリフが再びさえぎられる。 間近に、ザザッと土を蹴る音がして二人は思わず振り返った。 (・・・・・なんだ?) 小柄な人影が息を切らしてクッと唸る。
「しまった! 一足遅かったか・・・逃げ足の速い!!」
通りの良い声に悔しげな響きを滲ませたその人物は、ぽかんとした面持ちの佐藤に足早に近寄り屈み込む。 「お怪我はありませんか」 「は、はい・・・ありません、が」 「そうですか、それは良かった」
明らかにホッとした様子で口元に微笑が浮かんだ。 優しい雰囲気からすると、懐こい微笑みなのだろう。 (いい人みたいだな・・・ゴーグルで顔が見えねぇけど)
というよりも、なぜ警備隊の制服の様ないでたちにゴーグルに作業用ヘルメットなのか。 おまけに、白ヘルメットには大きく『安全第一』という文字まで見て取れる。 いつもの佐藤ならここで疑問に思うところだが、突然のことに思考が飛んでいるらしい。
「もし、後で具合が悪くなった場合は、遠慮なくこちらにご連絡ください」 「あのっ、ホントに大丈夫です」 「いえ、もしムチウチにでもなっていたら、今すぐはわからないものですよ?」 「・・・はぁ」
まだよくわからない顔の佐藤が首を傾げながら差し出されたカードを受け取るのを確認して、謎の人物はスックと立ち上がる。 そこへ、ヘルメットとゴーグル、同じ制服らしき格好の人物がまた一人駆け寄った。 立ち上がった彼は、局長、という若い声にクルリと振り返り頷く。 「む。 バイトくん、情報は」 「聞き込みの結果、北東に向かったとのことですっ」 「そうか、ご苦労。では早速後を追うぞ」 「はいっ」 「では、失礼いたします」
ピシッと背を伸ばし佐藤たちに一礼すると、彼は北東へ ―― 白ずくめ集団が消えた方角へと走り出した。 もう一人もすぐさま後を追う。
「鈴木クン佐藤クンまーたねーーー」
という聞き慣れた声を残して。
「おお、山本の新年のバイトとはアレか」 のんきに見送る鈴木の隣で、佐藤はまだ座ったままで呆然と影を見送った。
「・・・・・・ていうか、今の・・・・・・・・・・・何」 「知らないのか、佐藤。 毎年恒例の、胴上げゲリラと地球防衛局の追いかけっこだが」 「・・・・・・・・・・・・は?」 「目的は知らないが、毎年正月にああして無作為に不特定多数の市民を胴上げして回る集団がいてな。 それを取締りのために地球防衛局が追う、という風物詩で・・・」 「ちょっと待て。ていうか、地球・・・?」 「地域活動、救援および防災と衛生管理支援局。略して地球防衛局だ。 たしか、市民課に属するんだったな。 ・・・なんだ知らなかったのか」
意外そうな様子で瞬く鈴木に、佐藤はもはや言葉もない。
「・・・・・・・市役所にそんなのがあるなんて、さすが(田中安田市)っていうか、なんていうか・・・」 疲れたようにため息をつき、立ち上がった佐藤を鈴木が表情の薄い目でじっと見つめ、ふと口を開く。 「しかもだな、佐藤」 「・・・なんだ?」 「ゲリラは複 ――― 」
「うわぁーーーー?!!」 『わっせ、わっせ、わっせ・・・!』
「・・・数、出没するんだが、警告が遅かったか」 呟く鈴木は宙を舞う佐藤を眺める。 「良かったな、縁起物だぞ。 今年はいいことがありそうだな?」
鈴木にとって、何を指して良いことと言うのかは判然としないが、少なくとも、佐藤の春からの社会人一年目は、実に波乱に満ちたものになりそうだった。
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ということで、今年もよろしくお願いいたします(汗)
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