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2002年12月22日(日) ■ |
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「学園祭」編(高校二年時) その1 |
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「『闘う青春』・・・って、相変わらず理事長の考えることはワケわかんねぇな」 「そうか? 判りやすくて俺は好きだが」 「・・・お前も相変わらずだよな」
学園祭のテーマ発表があったのは昨日のことだった。 担任から預かったプリントの山を抱えて歩く道中、なかなかにインパクトのあるその煽り文句 ―― 否、学祭テーマを口にして、ひとつ溜め息をついた佐藤の隣で、いつもの如く鈴木が淡々と返す。 二人だけを見ればいつもと大して変わらない光景だが、周囲の空気だけがいつもとは違う。 三階の渡り廊下でふと足を止め校内を見渡すと、学校全体がざわざわと活気に満ちていた。 どの教室も、学園祭の準備に向けた打ち合わせに熱が入っている。 ―― もう『闘い』は始まっているらしい。
鈴木と佐藤が通う高校では、毎年理事長の決定したテーマに基づいて学園祭の方針が確定する。 生徒会執行部も含めた生徒たちは皆、その発表を受けて色々な学祭の細かいプランを詰め始める。 ちなみに、この理事長。 来賓のない校内限定(いわば内輪)のイベント・・・もとい、学校行事の際、例えば予餞会などで生徒会の司会が面白くない ―― あくまでも理事長視点である ―― 場合など、司会の生徒からマイクを奪い取り、
「ふはははは、生徒諸君待たせたな!」
と、高笑いとともに自由気ままに『暴走』するという、非常にお茶目な教育者(自称、花のロマンスグレー)であった。 ・・・つまりである。 この学校の学園祭の行方は、全てこの理事長の気分次第という、なんともアバウトかつ、ある意味年間を通して最も『危険』なイベントでもあるということだ。
「あの理事長が絡むと退屈しないな。楽しいことは良いことだと思わないか?」 「退屈しないってのと、楽しいってのとは、全然別物だと思うぞ。 特にあの理事長が絡むと・・・」
佐藤は、いささか疲れたように肩を落とす。 鈴木と山本、小林が、件の人物に気に入られているせいか ―― 佐藤としては、気に入られている対象の中に自分を含めたくないらしい ―― なにかの時には、ほとんど必ず仕事を割り振られ、面倒ごとに引っ張りだされてしまうのだ。 そう、いつぞやの「徒競走大会」の時のように…。 もちろん、毎回タダでこき使われているわけではなく、バイト代という名のなんらかの報酬があるにはある。 しかしそのバイト代にしても、学食のチケットはまだしも ―― 理事長室への自由な出入りの許可とか、放送室に専用マイクを準備してくれたりだとか、意味もなく豪華なお中元が自宅へ届いたり(シェフ三人とウェイターの『フレンチディナーセット』が一般家庭の台所に乱入)だとか、そんなもの貰っても・・・と思うようなものが多いのは一体どうしたものか。
「巻き込まれる内容も内容だけど、あの『バイト代』もなぁ・・・」 「お中元は楽しかったぞ? オフクロも喜んでいたな」 「・・・いや、俺のかあさんも異様に喜んでたけど・・・」 時々、自分の母親も理解の範疇から遠ざかる。 佐藤少年にとって、自分の周辺に『常識』の二文字は限りなく縁遠かった。
頭の痛い問題をあれこれと思い返しながら、佐藤は教室のドアを開ける。 ガラリとドアが開く音と、 「おおーっ!」 という歓声がほぼ同時だった。
(続く)
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