青春の思ひで。
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大好きなひとと別れようとしてまた失敗した。 今度ばかりは泣かれようが脅されようが絶対にほだされないぞと思っていたのに、結局涙にやられた。
学校は2日ほど行かなかった。 授業どころかあたしを秘書として雇ってくれているY先生とのお約束(仕事じゃないけど)すら守れなかった。 当然のように研究室の新歓コンパも行かなかった。 二次会をゼミだけで、行きつけのバーでやっているから来ないか、という誘いのメィルももらったけれど、返事すらできなかった。 先生に会うのが怖い。だから、先生に一筆していただかないと申請できない奨学金を諦めた。 先輩に会うのも怖い。 同期に会うのも怖い。だって、別に積極的に仲良く出来なくてもいいや、と思われてるみたいだから。 そう思っていたら、ただひとり外部の大学からやってきた同期のひとからメィルをもらった。 「みんな心配してるから。あなたのペースで、のんびり元気になってください」って。 涙が出た。 Y先生も電話をくれた。何一つ責められずに、ただ優しい言葉をかけてもらった。 それを後輩に言ったら、「それはあなたが今までしっかりやってたからでしょ」と言ってくれた。
信じられないほど暑い夕暮れに。 後輩と一緒にご飯を食べに行った。 アリスの食器が可愛いパフェの美味しいお店に。 オーダーがやってくる間、テーブルに置かれてあるアリスのお砂糖ポットを眺めながら、アリス談義をした。 「ルイス・キャロル専門の僕はアリスにもうるさいよ」 「あんたの専門は一体いくつあるんだ(笑)」とか言いながら。 そしたら、ふいに、 「あいつも、アリスにはうるさいでしょ」とさらりと言った。 「知らないよ」と答えた。 ほんとうに知らなかった。 でも、嬉しくなった。 なんで後輩は、そんなこと言ったんだろ。 あたしが、他の男のことで喜ぶってわかってて。
お腹がしくしく痛いや。 お酒が呑みたい。 行きつけのバーの暗くてざわざわする空間とマドンナの笑顔だけが安心できる場所だ。 早くボトル入れなきゃ。プラチナの。 あいつがブラックを入れてるから。 あたしはブラックは入れない。
なんだかよくわからないけれど、すべてが間違っているような気がする。
大好きなひとと一緒にいることも。 大好きなひとと少しずつ自然に離れていっていることも。 あいしているのかにくんでいるのかわからないひとを想うことも。
当然の権利を振りかざすかのように場に溶けていこうとしたことも。 ほんとうはあるはずのわだかまりを無視して親密になろうとしたことも。 徹夜すればいいと思っていることも。 初めて無断で授業を休んだことも。 誰とも目が合わせられないことも。 メィルを送ることも。 メィルを送らないことも。 メィルをもらうことも。 先生に会釈をすることも。
卒業しなければならない場所で安心することも。 そのくせ過剰に粗暴な人格を装っていることも。 熟知しているふりして説教することも。 ほんとうは甘えたいんだ、ってほんとに少しだけ滲ませていることも。
極限まで何も食べないでいることも。 3時間もお風呂に入っていることも。
テレビを見て泣くことも。 無表情で情報の文字の羅列を追っていくことも。
笑い話にすることも。 悪態をつくことも。 どちらも本意ではないのにそうしてしまうことも。
わかっているふりをすることも。 わからなくても、信じていると勝手に繋がりを求めてしまうことも。 わからないふりをすることも。
部屋に暖房をいれたことも。 今、キーボードを打っていることも。
寒い。 春なのに。 夏が好きなわけではないけれど、はやく春が終わればいいのに、と思う。
アルコホルで大失敗をし、落ち込み、そのくせまたアルコホルに手を出し、落ち込んだことを忘れて幸せな気分で眠って、起きたらアルコホルが抜けていてアルコホルをいれる前より落ち込んだ。
麻薬や覚醒剤のように依存している。
愛しているひとと信頼している一部のひとを除いて誰とも目を合わせたくない。 話もしたくない。 声が上擦って、息があがりそうになって、伏し目がちになって、口の端だけで笑う。 変態かよ。
記憶がぼろぼろ欠けていって、残ったものが、全く別の次元にばらばらにあるというのに、絡み合って、どうしようもなくなる。 何も考えられない。 過去のこと以外。
どこで生きていけばいいのかわからない。 固執している記憶はいつも薄暗い。
無理だよ。 他のどこへも行けないからね。 あなたが僕から離れて他のひとのところへ行くなら、 それは全力で潰すから。
引きつったような笑いを、浮かべて。 どこか一点を見ているような、どこも見ていないような瞳で。 そんなことを言われると。 このひとは狂っているんだなぁ、と思う。
狂った者と狂いたかった者が絡み合って、ほどけない。
後輩の、忘れていったポータブルCDプレイヤーの中には、彼が日本で一番好きだと言うバンドのCDが入っていた。 その、もう今は亡くなってしまったというヴォーカルの男のひとの声を、歌う歌声を、初めて聞いたのだけれど。 奇妙に高くて、奇妙に伸びる、でも確かに男のひとの声を、何故か狂っていると感じてしまった。 狂ってるよ。 狂ってる。
あたしも、後輩も、その親友のあいつも。
正門前の桜並木から、あの匂いがする。 春の夜の匂い。桜の香り。私にとってそれだけではなく。 あの春の夜の匂いなのだ。 あの匂いがこのからだ中に入って来て、いっぱいになって、頭がおかしくなりそうだ。頭の中まで犯される。
これが春か。これは業か。
私の存在などに関係なく救われないあんたと、あんたの存在故に救われない私の、救われない者同士が慰め合うように傷付け合う春の、夜。
口走ってしまった言葉には、しきれない程の後悔をするけれど、起こってしまった事実に対しては後悔をしない。否、できない。後悔できないのだ。
何が起こらなくとも、この2年の変化が一切なかったとしても、これは私の業なのだ。私が抱えていた大切な大切なものが、形を変えて現れただけの、私の業なのだ。 それでも、他人と切り結んだだけより深い業となったのだけれど。
あんたが、私とは全く別のところで一生救われなさを、この業を、抱えて生きていくように、それが故に、私はこれを、一生救われぬまま、業として抱えていかねばならないのだ。
嗚呼、救いなんてないとも。わかっている、ほんとは、それくらい。 救いなど、ない。 解決などできようはずもない。 引きずるなんて、そう、一生だ。一生。今、ここから見える範囲の一生だ。
救えなかった、理解できなかった罪悪感、ただそれだけだから。何も気に病むことなどない。 ……病まずにいられようか。この病。
私が愚かだった。何よりも。 お願いだ。お願いだから。 私は、あんたが私に言ったことを覚えてはいないのだ。お願いだ。 麻薬のようなアルコールの力など借りずに、お願いだ。 わかっていても、少しでも、私は、救われたいんだ。助けて。助けて。助けてよ。 少しも、消せないんだ。消せるわけなんかない。それでもすがらずにいられない。
2005年04月05日(火) |
一夜がまだ明けない。 |
春はいけない。春だからよくない。 覚えている。3月22日。 ひとりで、どうにも解決できる術を持たずに苦しみぬいた2年間の結果は、予想だにしなかった2年後のこれは、一体何なのだ。 所詮この程度の救われなさなら、何故もっと早くに起こらなかった? 「何もない」と言われるあれを2年もひきずったなら、「何もない」と言い切れないこれを、私は一体何年引きずらなければならないのだ。一生か。
私は、きっと、忘れなければならないのだ。忘れて、何もなかったことにしなければならないのだ。 できない。それができるならば、2年も引きずったりしなかった。 何で、私だったのか。忘れられる種類の人間もいて、私はそういう強さを持ち得ないし、また自分と相手のために一切を拒絶する強さもまた持ち得ない。それなのに、何故、そういう私なのか。
たぶん、望まなければ2度と会えないだろう。 だけど、私はまだこの関係性の中に望んでいるものがあるのだ。
初夢は、正夢だったのだ、まさに。私の精神においても。
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