昔、ほんの子どもだった頃、わざわざ木靴をコツコツと鳴らしては夜の隙間を歩いた。 透き通った瞳に映る月は、誰かの大人びた愛を照らした。 君の居場所は見知らぬ大人の灯り街。 僕は角の長い影を踏み遊びながら 騒がしい店の長椅子に座る君を盗み見た。
君は僕と変わらぬほどの子どもだったけれど その目はとても空ろだった。 視線の向こうでは細やかな宝石のドレスを着る妖艶な女が 烏の濡れ羽のように黒い髪を指先で弄び、 血のような色の唇の間で低く魔法を唱えた。
胸の中でタッタと働く時計の針が弾けとび 秒針が冷たく刺さった。 僕は眩暈を起こし、世界の色が少しだけ暗くなったので 一瞬全てを見失った。
そして女は、悪い風のように僕から君を 奪っていった
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静かに編んだ指先から ただ鼓動を感じた
一瞬の張り詰めた衝動を 柔らかく受け止めること 装った形を捨てた時 生命の音を聞く
結び目を解くまで 世界は遠く近く狭い | |
蒼穹の弓
涙
指先と唇に感覚
透明な夜を纏い今を感じる
ずっと願い続けていた 夜の明かりが 君の掌を照らした だから私は 体温を感じて 身を委ねる 全てを任せる
君を教えてくれたのは 闇の中の光
君を知るよりも ずっと遠い昔から 月を間に 早く逢いたいと 話しかけていた
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水の街 流れては ぶつかり合い 衝動に憤る 立ち止まり大声で泣きたくても この街はそれを許さない
人は流れる 私は立ち止まりたいのに 誰にも逆らえない
空は黒い でも立ち止まれば星は少しづつ見えてくる 同じ月に遠い誰かと交信することもできる
水の街に生まれ 暗い空に光を探し ずっと居場所を探し続けてきた
電車に乗ってこの街を捨てようと 遠い街や時の止まった山奥へいったりもしたけれど どこにも居場所はなかった
それもそのはずだった なぜなら私は一人だったから
私は気付かなかった 君が隣にいることで すべてを居場所にできるなんて。
息苦しい水の街 時の止まった山奥 君の生まれ故郷 ひざを抱えて座る月明かりの滑り台の上
君がいて すべてが居場所になる 手を繋ぎ 隣を歩く それだけで 私の不安と孤独 全部を 安心に変えて暖かな場所にする
首に下げた鍵 薬指の指輪 そして明かり。
遠く 離れ離れになって 私はまたこの街で自分を失うかも知れないけれど そうしたら夜空を見上げて 月をみつける
あの日滑り台に座って 君を一人で考えていた日を思い出す 居場所をありがとう。 隣に居てくれて
ありがとう。 | |
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