Murmure du vent
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幾分吊り上った眼、黒い髪を結い上げ穏やかな口調の中にも強い意思が感じられる人だった。
急な腹痛で受診し救急外来で診察をしてくれたのが彼女だった。 「いつから痛みだしましたか?ここはいかがですか」と私の腹部をゆっくり触診し思わず顔をしかめると「お辛いですね、大丈夫ですよ楽になりますから」そう微笑みかけられた時とてもいい匂いがして私は思わず「何の香りだろう…」そう呟いてしまった。
「カボシャールという香りです…」
採血をして点滴をしているうちに腹痛も治まりベッド脇に彼女がきた。 「検査上は特に心配ないようですから、お帰りになっても大丈夫ですけど」 「だいぶ楽になりました。どういう意味ですか、カボシャールって」
口元が綻ぶと案外幼い表情になった。「強情っぱりという意味です、私のように…」 そういい残して立ち去る彼女からは、再び凛とした気品ある香りが漂った。
今私の心を狂おしくする香りはベッドの中で静かに微笑んでいる。
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