「硝子の月」
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「人に酔ったか?」 からかうように言うこの女は、自分の胸の内を知っているのだろうか。 「かもな」 短く答えて彼女の手首を強く引き、紫闇の瞳を見据える。カサネの肩の上でヌバタマがピィと抗議の声を上げたが気にしない。 「いったいどこに行こうってんだ。目的もなく歩いてたわけじゃないんだろ?」 「お前に会わせたい方がいる」 答えはすらりと返ってきた。 「俺に?」 「そう」 頷いて、彼女はまた歩き出す。グレンに手首を掴まれたまま、視線を合わせたまま。 「私の主だ」 彼女の笑顔は、やはりどこか青年をからかっているように見えた。
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