Story of love
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窓ガラスに近づいて表面の水滴を指でぬぐった。
冷たい。
そう言えば、ずいぶん長いこと空を見ていなかった。
その間に、空は雲に覆われてしまったらしい。
また、太陽を見ることはできる?
後ろから糸で引っ張られるようにして、さっきのメモをしまった引き出しに意識が向いてしまう。
クリスマスの前のあの日、わたしは面接官のように、並んだ2人の前に座っていた。
不思議なことに、前からの別れの予感が当たったことに、一種の自虐的な満足感を覚えていた。
涙を流す彼女の横で、彼はうつむき、小さな声で「ごめんな」と言った。
彼女の涙が、きらめくダイヤモンドのように見えた。
こうしてわたしは、恋人と親友をいっぺんになくしたのだ。
その後、どこをどうやって歩いて家に帰り着いたのか覚えていない。
家族の誰にも会わないようにして部屋に駆け込むと、編んだマフラーを解きだした。
ぼわぼわな糸に戻った毛糸がじゅうたんに広がる。
きっとその時、わたしのこころも一緒にほどけてしまったのだろう。
そのかわりに得たものは、何にも乱されることのない平穏。
誰にも捉われることのない自由。
どこまでも果てのない白い、白い底なしの空虚。
冷たくかじかんだ手に目を落とす。
何でわたしの手は透けていないのだろう?
なぜ痛むのだろう?
どうして血が通っているのだろう?
まだ実体があることが不思議に思えて仕方ない。
(つづく)
どのくらいそうしていたのだろう。
気がつくと、床から伝わってきた冷たさで、体がすっかり凍えてしまっていた。ベットに右手をかけて立ち上がる。関節がこわばってしまって、ぎしぎしといいそうな感じがする。
外に目をやると、結露におおわれて曇っている。
これじゃ、天気がわからない。
別に今日も出かけないのだから、どうだっていいはずなのに。それでも予報を見てしまうのはなぜなんだろう。
まだ、「何か」に期待しているからなのかな。
見つけたメモ紙は、引き出しの1番奥にしまっておこう。ずっと前に耳にした、外国の言い伝えを思い出す。
「引き出しの底にしまっておけば、どんなものでもいつか妖精が持って行ってくれる」・・・だっけ?
彼からもらったネックレスもそこ。ヘッドのハートは傷ついて、歪んでしまっているけれど。
(つづく)
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