★東野圭吾。『殺人の門』

久々かな、東野作品。
毎回なにか違う感動を与えてくれる東野さんは、本当に尊敬。
今回の「殺人の門」を読み終えて、まずだいぶ前に読んだ
「白夜行」に似た空気を感じた。
もちろん、話の内容などは全然違うのだけれど、
人間の心の一番澱んでいる部分、その下にたまった
沈殿物が、ねっとりとまとわりつく。
耐え切れずにすっ飛ばした部分もあった。
主人公に肩入れできないと、読んでいてしんどいものだ。
なんでそうやねん!と思うことも多々あった。
もちろん、主人公田島の人生を手のひらで転がす
倉持というヤツは本当に心から嫌なやつなんだけれども、
本当にこういう人間がいたらと思うとぞっとするし、
その辺が「白夜行」で感じた「いやな感じ」と
合い通じる雰囲気なのかもしれない。
つまり2人は加害者と被害者というものではなく
離れられない運命を背負った負のパートナー……
もちろん、負のパートナーなんて願い下げではあるけれども。

2004年03月24日(水)
★宮部みゆき。『模倣犯』

まったく予備知識なし。あるのは中居くんのニヤニヤ顔だけ(笑)。
当時絶賛され、映画化もされたこの上下巻の長編だが、
絶賛されると読む気を削がれてしまうというやっかいな性格なので
今まで読んでいなかった。

3部構成になっている。
1部は被害者とその家族側からの、2部は犯人たち側の、
そして3部はその後の展開を犯人以外の登場人物の目で。
宮部さんは本当にうまい、と思うのは、すべての人間の
目線が本当にていねいに書かれていることだ。
殺人事件について思うなら、「誰が、何故、どのように」
という部分はとても今までの小説で大切にされていたことだが、
犯人はともかく、その周りにいる人間、巻き込まれた被害者や
その家族、そして加害者とその家族をここまで書くかというほど
書きこんでいる。
それがために、読み進めるのが苦しい。
リアルなのだ。
巻き込まれた人間は、多かれ少なかれみんな傷を負っており、
その傷が癒されることは長い長い時間を経たとしてもありえない。
ただ、心の奥底に折りたたまれるだけなのだ。
そしてその心のひだひだに触れるのが、読んでいてつらい。
亡くなってしまう被害者も……
世間でもつまらないことで殺されてしまう事件が後を絶たない。
そういった被害者の気持ちを推し量らされるような思いが
なんともやるせない。

そして、何故この小説のタイトルが「模倣犯」なのか、
それはラストに明かされる。
その部分だけ、そこだけが唯一の救いの場面だ……。
2004年03月21日(日)
★柴田よしき。『桜さがし』

帯の「青春ミステリ」の文字を見て、感情移入できるか
ちょっと不安だった。
しかし、それは杞憂だったようだ。
その言葉でくくれないほど、等身大の若い4人の
心のひだひだが、ていねいに書かれていると思う。
それぞれが、新しい一歩を踏み出そうと決意する
場面は、もう若くはない自分にはまぶしい。

人生の岐路、もちろん自分にもいくつかあったと思う。
ここまで真剣に向き合える彼らがうらやましくもある。
過ぎ去った日々はもう戻らないから、
しばしのタイムトリップ。
2004年03月07日(日)
★小川洋子。『博士の愛した数式』

久々にハードカバーの本を買った。
たまには…ミステリを離れるのもええやろ;^^
というわけで、参加している某メルマガの編集後記への寄稿を引用。

「小川洋子さんの話題の新刊『博士の愛した数式』を読んだ。
すべての数字がこれほどに意味を持ち、鎖で繋がっているとは驚きだ。
28という数字は、自らの持つ約数の和である。
つまり、28の約数は、1、2、4、7、14。
そしてその5つの和はやっぱり28になる。
さらに1から7までの和を順番に足しても28。
これを完全数と言う……数学は苦手だったけれど、
本当は数字とは美しいものなのだ、と思わせてくれた。
あー、もう少し勉強しとけばよかった。」

主人公が、本当に自然に呼吸するように博士との生活を
淡々とこなしていく、そのなんというか物語を覆う透明感が
なんとも言えず心洗われる。
もちろんそれは数字や数式がひと役かってはいるのだが。
そして息子「ルート」と博士のやりとり。
博士がルートに注ぐなんのてらいもないストレートな愛情と
それをきちんと受け止めることができるルート。
子どもって……オトナが思っているよりも、ずっとずっと
心はオトナなんだと思う。
そして、その「心がオトナ」な部分は、身体がオトナに
なると失われてしまうことが多いのだ。

終わり方も実に普通に、淡々としていた。
でも、ルートが数学教師になる、そのことが妙に嬉しかった。
「数学が苦手」な自分が、実に口惜しい一冊だった。
2004年03月06日(土)
By ちゃいむ

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