カゼノトオリミチ
もくじ過去未来


2006年10月31日(火) たわいない




たわいない に

助けられたりする

トイレで

水と一緒に流してしまえるくらいの


取るに足らない たわいないことだ と

そんなことは たいしたことはない と


帰り道 夕焼け雲をみながら考える

そう、そう、そうだよ。


たわいない たわいない と呟く







2006年10月30日(月) はなびら




ぽろぽろと

秋にしろいばらが散る


誰も気が付かない

雨の明け方に


朝もやの中からやってくる

新聞配達の低いバイクの音


彼の背中に

ひらり

ひとひら舞い落ちた


はなびらは

そうっと遠い旅に出る









2006年10月29日(日) 慈しみ




おかえりの鐘が商店街にひびく

街からは 数日前の明るさも消え

午後5時は 暗闇の始まり


風呂屋の煙突よりも高い場所にとどまって

黒のベールにつつまれた なんて薄い月


顔をあげなくていいよ


ひとつひとつ クリアするしかない


その先はどうあれ

今は足元だけを見ていればいいよ と


誰を照らすこともなく

ただ 淡く

爪の先のようなか細いオレンジ色はそこに居て

秋の終わりへと続くこの街を

見下ろしている







2006年10月23日(月) すぴーちばるーん




電話でたくさん話をした

話題を上手に提供してくれる電話の向こうの人の

心づかいに感謝しながら

コトバのレールの上をするすると走り続ける


と だんだん ひとりでに

コトバが走り出し 加速して

ふわふわレールから浮かび上がり


自分が話しているのに

コトバが勝手に舞い上がり

手で捕らえようとしても捕まらず


きっとこのまま 口から生まれた

すぴーちばるーんの中に くくられて

どこにコトバは 飛んでいくのだろうか と

ぼんやり別のところで 考えつつ


私はまだ 会話を続けていた






 


2006年10月20日(金) 宛名のない手紙




返事の来ないように

宛名を書かずに手紙を書く


そんななら 書かなければいいのにと

カラスが笑って鳴いている

わかっているよ そんなこと


誰にも届かなくても

誰かに宛てて 書きたいの


つまりは 傷つきたくないのでしょ

10月の風が ヤマボウシの色を

少しだけ赤く染めて そよいで消えた


2006年10月19日(木) 見知らぬ人へ




こころが 小さくすいこまれてゆく

そんな気持ちだったのではないかな


背中からまるくなって

どんどん内側にまるくなって

まるく まるく ちいさくなって

点になって


消えてしまいたい と

そんな気持ちだったのではないかな


でも 偶然に眼にした 1行に

その ちいさなコトバ に

引っ張られて 戻って来れました


点が 空間の向こう側へと

消えてしまう前に

そんな気持ちに なる前に


ありがとう 

ありがとう 見知らぬ人へ





2006年10月18日(水) こころの辞書




言葉が人を突き刺すから

こころの辞書を思い出した


すっかり置き去りにしていた

古びたニオイのこの辞書を


最近は

変換 ゆび一本で出来るから


かちゃかちゃの キーボードの音でなく

厚くて重たい辞書のページを

手繰ってみた

さらさらという 紙の音がした 




2006年10月16日(月) その存在のための呼び名




名前 なまえ

そこにいる存在に つけられたもの

或いは 呼び名


おぎゃあと生まれて

どんなにか祝福されて

えがおに満ちて

その存在は あたたかくて


それなのに 時は過ぎて

ニュースでながれる

かなしい名前


この世に生を受けた あの日

かなしみの存在として よばれるために

つけられた名前など

ひとつもないのに


ひとつも





2006年10月15日(日) ハグ




西の空に静かに太陽が落ちてゆく

見守るように並ぶ チイサナ固まり いわし雲たち


シャツの腕を撫でる風は冷たくて

あわててガラス窓を閉める

時計は午後5時 こんなに夕暮れがはやまりました


ひんやり鼻をくすぐる 秋の空気は

そう

からっぽな季節に向かっているんだ

だから誰かをハグしたくなる


あたたかくてふわふわの茶色いかたまりは

私のハグに じいっとがまん がまん

まあるい眼で不思議そうに見上げてる


ありがとう





2006年10月13日(金) 10月の風のお知らせ




太陽が昇ってすぐに雲に隠れてしまったので

あたりには灰色とみかん色が

行き場を失くしたように重くながれている


ひんやりした空気の便りには

10月も半分過ぎたから そろそろしんみりしなさい と


私はさっそくアンテナを長く伸ばして

今日の始まりの風を深呼吸


はい 了解しました

西の大地のメイプルの葉が色変わりしたと

いま 確かに感じ取れました


朝のぼんやり頭に

アァァ アァァ アァァ

カラスが笑って鳴いています




2006年10月12日(木) 秋の蝶たち




ひらりひらりと 二羽三羽

秋ののどかな日だまりで

輪を描くように

風にふんわり舞う


羽の先の黒いのはメス 茶色のままのはオス

今日は 明日は

つかの間のダンスを踊れよ

たわわに揺れるブッドレアの穂の上で


秋の蝶たちよ

自分達が枯れ葉の色をまとっているのを

知っているのか





2006年10月10日(火) お月さま




昼間だけでなく

ひろいひろい

やみの海にも

白いひつじ雲は浮かんでいます


たくさんのマシュマロのような雲の間に

顔を出したお月さま


おはよう こんばんわ


私はこれから寝ますが

どうぞ

どうぞ朝まで見守っていてね

おねがいします


2006年10月07日(土) アカルイキモチ




「苦しくなったら

悪いことの数と

良いことの数を 比べてごらん

悲しみの数ばかり数えてはダメだよ

きっと良いことの数のほうが多いはず」


雨の遅い午後

美容院の週刊誌に救われる


帰り道

アカルイキモチ

アカルイキモチ と となえてみた

それから

わざと傘をずらして歩く

顔に どしゃぶりの雨がかかるように



2006年10月06日(金) さがしもの




言葉では割り切れない

きっちり結論なんか出せない


わかってるけど

おもちゃの貯金箱をさかさまにして

がちゃがちゃと振るように 言葉を捜して


今日も

ほそぼそと冬へと続く この道を

日暮れるまで行ったり来たり









2006年10月05日(木) 存在




モンキチョウが 残り少ない蜜を探して

頼りなく花から花へと ひらめく

こうしてしゃがんでいるうちに

存在と空間の境界線は

午後の太陽ににじんでゆく


高くなった雲がほこほこと

西へ西へと流れているだけの午後に


誰かの記憶から 私が消えるときは

なにもお知らせなどせず

辺りの空気の温度が ほんの少し下がるだけ

それは あなたの肌に心地よい風となり 

庭先をなぜて

この秋はじめての落葉が

かさりと小さくかたむく










2006年10月04日(水) それも愛




大切な気持ち

人を愛する気持ち

世界を愛する気持ち

地球を愛する気持ち


愛を守るためにはどうしたらいい?

愛を守るために誰か、何かを傷つける


誰も、何も愛さなければ

傷つけることもなく 傷つくこともない  はず?

…石になったらいい?


2006年10月03日(火) 朝のおまじない




朝 掛け布団をたたみ 枕を直すとき

つぶやくおまじない

「このベッドで
今日もまた穏やかな夜を迎えられますように」


柔らかい時の流れに寄り添いながら

日は昇り 日は沈み

繰り返し朝は来る

果てに往きつく その時を迎えるまで


2006年10月02日(月) わがまま




かなえたい強い思いと

拒みたい強い思いと

どちらも わがまま


今夜

なだめるように降る雨も

行き場をなくして 

よどみ

タメイキの水たまりへと

迷い込む


2006年10月01日(日) 白いシュウメイギク




日影のすみっこ

白いシュウメイギクの蕾が

やっと見えてきた

秋だなぁ、

ぼんやり草花を見つめていると

時が淀んで止まりそうになる

あわてたように乾いた風が

カサカサ吹き過ぎる

いつの間にか

冷たい朝露の降りた10月の朝に

暗がりに浮かぶように

白く咲いてくれていたら嬉しいな


natu