※今日の日記は育児日記ではありません。
今日、日付が変わった頃、１０年前から我が家で暮らしていた
猫のチビが死んでしまった。
１０年前の雨の日にうちの母がずぶぬれになっている子猫を拾ってきた。
それが、チビだった。
小さくて、毛がフサフサで、とってもかわいいんだけど風邪をひいていて
鼻水・ヨダレ・涙・目やにでグシャグシャで、ブルブル震えてた。
あたしはその日、一晩中チビの看病をしたように記憶している。
子猫の頃は無邪気で人の膝の上でひっくり返ったり、おなかを見せて
大の字で熟睡するような猫だったのに、いつからか臆病になって、
お客さんが来たり、姪っ子たちが来ると必ずどこかに隠れてしまった。
気が小さい猫だった。
いつもどっかに隠れてた。
でも、とっても甘えん坊で、誰かが横になってくつろいでいると
どこからかヒョッコリ現れて、その人のおなかや胸元に顔をこすりつけ、
赤ちゃん猫がお母さん猫のおっぱいを飲むようなしぐさをしたものだった。
いつだったかよく覚えてないが、今年、チビは急に痩せてしまった。
我が家にはあと２匹の猫がいるのだが、チビはよくその２匹に追われたり
叩かれたりしていじめられていた。
（他の２匹は遊んでいるつもりだったかもしれないが）
もしかしたらストレスかもしれない、と、私と母はチビを会社の社宅に
一人暮らしをしていた弟に一時引き取ってもらうことにした。
弟は家族で一番チビを可愛がっていた。
チビがそういう状態だと知った弟は、快く引き受け、しばらくチビを
自分の元において世話をした。
どれくらい経ってからだろう、チビは少し太って戻ってきた。
それからはごくごく普通に時が流れた。
私は日々の育児と家事に追われ、我が家のペットたちのことを注意深く
見ることもなかった。
でも、数日前だったか、チビに元気がないことをやっと察した。
気が小さいチビは少しの物音でも飛び上がり、ダッシュで逃げたり、
人が近付くとピュ〜ッ！と、どこかに行ってしまう猫だったのに、
私がそばを大きな音をたてて通っても、寝そべったまま動かない。
一日中そうだった。
８月２日、家のあちこちに猫が吐いたあとがあった。
普段から長い毛のチビはよく吐いていたし、他の猫も食べすぎで
戻したりしていたから、あんまり気にしてはいなかった。
８月３日、今までとは違う量の吐物が数箇所にあった。
大量に吐いてあった、中に食べ物の形跡はなく、胃液だけ、という感じ。
元気がないので、弟に「一度会いに来てくれ」とメールをする。
夜、弟から「土曜日に見に行って、場合によってはまた引き取る」との
電話が入る。
８月４日、出かけて家に戻ると、廊下に一箇所、吐いたアト。
居間にも一箇所あった。
朝はおふろばの洗い場の上にうつ伏せになってぐったりしていた。
水を飲むように洗面器に入った水をチビに差し出すと、飲もうとして
顔を起こして数回舌を出すが、飲まずにそのまま洗面器にアゴを
乗せてじっとしていた。
夜になると少し息が荒くなった。
声をかけたり撫でたりすると、顔を上げたり「ニャー」と、
優しい声で応えたりしていた。
りんりんを寝かしつけようとリビングから廊下に出ようとしたとき、
廊下で寝そべっていたチビでドアが開かず、チビに声をかけて
動いてもらったら、すこしよろけるように歩いてダイニングテーブルの
下に移動していった。
私が寝る前、１０時くらいか、ダイニングテーブルの下にもぐって
チビの様子を見る。
アタマを撫でると、のどをゴロゴロ言わせて顔を上げてくれた。
明日は病院に行こうね、そう言って、私は寝た。
８月５日、午前１時過ぎ、眠っていた私のところにパパがやってきて、
私を叩き起こした。
「チビ、死んじゃってる・・・」
一瞬何を言ってるのかわからなかった。
だって、さっきまでゴロゴロ言って、顔を上げて・・・。
寝ぼけたまま急いで走り出したら転んでしまって、パパに支えられて
もう一度聞きなおした。
「チビ、死んじゃったみたい・・・少し前、なんか音がして、
寝る前に見に行ってみたら、死んでた・・・」
チビはダイニングテーブルの下から出てきたところで倒れていた。
もう、舌が出てしまっていた。
顔の下には吐いた物が広がっていた。
いつもの胃液みたいなものだった。
左前足の肉球に、鮮やかな血がついていた。
どこから出た血なのかはわからなかった。
チビはまだあたたかかった。
死んでしまった直後だったのか。
心臓マッサージすればまた生き返るのだろうか。
弟に電話をすると、すぐに駆けつけてきた。
チビを、いつも撫でるような仕草で何度も何度もずっと撫で続ける弟。
チビのフワフワな首、撫でると喜ぶその位置をずっと、何度も。
もっと早くチビの異常に気付いてやれたらよかったのに。
どうしてもっと早く病院に連れて行く決断が出来なかったんだ。
後悔は尽きない。
けど、弟が言った。
もしも病院に行ったとしても、色んな検査をされたり注射をされたり
メスを入れられたり、気の小さいチビはそれだけで苦痛だろう。
切り刻まれないで死んだと思えば、それでよかったのかもしれないと。
猫の寿命がどれだけなのかわからないが、チビはホントウはもっと
長く生きられたと思う。
けれど、あまりに気が小さく毎日オドオドしていて、たまに甘えて
くる以外はいつもビクビクしていたから、普通の猫よりも
短命だったのかもしれない、寿命だったのかもしれない、と、
何人かの人が言っていた。
だけど、私はチビにしてあげられるだろうことをしてあげられず、
そのまま死なせてしまったという思いが強い。
娘が生まれてからと言うもの、チビには全然かまってやれず、
甘えてきても「チビのママじゃないんだよ！りんりんのママなの！」
なんて言って、追い払っていた。
赤ちゃん猫のようにおっぱいをすいに来ても、退けていた。
スリスリしてきても、「毛が付くからやめて！」と、遠ざけた。
どうして私はそんなチビの甘えを受け入れてやれなかったんだろう。
そうすることでチビがホントウに安心するんだから、思いっきり
やらせてあげればよかった。
いつからか、甘えてくることすら出来なくなっていたチビが、
死んでしまう前の晩、パパさんが呼ぶと、懐にやってきて甘えて
きたそうだ。
「最後の挨拶をしたのかもね」
ばぁばが言った。
うちのパパさんは、私や母よりも、チビのことを受け入れてくれて
撫でたりしてくれていたからかな・・・。
私はいろんなことを思い出した。
拾ってきた夜のこと、チビに赤ちゃんが出来て病院に連れて行って、
レントゲン撮って何匹いるのか数えたこと、照明器具の紐に
飛びつくのが大好きだったこと、人の前にスス〜ッと現れて、
ひっくり返って甘えのポーズをとっていたこと、
気が小さくて、病院に連れて行くと受付のところでおもらししたこと、
背の高い下駄箱の上で眠っていて足と尻尾だけが見えていたこと、
りんりんがおなかの中にいて、私のおなかが大きかったときに
おなかに向かって頭をすりつけて甘えて来たので、
「りんりん〜、チビちゃんだよ、チビちゃんは毛のなが〜い美人の
猫さんだよ、出てきたら遊んでもらおうね〜」なんて言ってたこと、
次から次へと思い出した。
弟は当然泣いた。
チビをいつまでも撫でながら、泣いていた。
チビのこと、ホントウに可愛がっていたから・・・。
きっと、前の日に私からメールをもらっていたのに、すぐに会いに
来なかったことも後悔してるんだと思う。
死んでしまってから「あぁしてやればよかった」「こうしてあげれば
よかった」などと思っても遅い。
けれど、生きてるときにはそれを見失う。
普通の暮らしが平凡で幸せだということ、忘れてしまう。
今日、午前中に市の施設にチビを連れて行って最後のお別れをした。
もうチビはいないんだ。
なのに、家に戻るとあちこちに拾い切れなかったチビの長い細い毛が
落ちていた。
まるでさっきまでそこにいたかのように。
もしかしたら今までがユメで、チビはどっかに隠れてるのかもしれない、
そう錯誤しそうだった。
とにかく今、私はチビにしてやれなかったすべてのことを悔やんでいる。
チビからはいっぱいあったかい気持ちをもらったのに、癒されたのに、
私はチビにどれだけのことをしてやれただろうか・・・。
自分の小ささに愕然としてしまった。
ただコドモが出来て生まれただけで、チビのことすら考えてやれない
ココロの小さい、狭い、そんなヤツなんだって思った。
器の小さいヤツなんだって、思った。
チビ、今までありがとうね。
ずっと忘れない。
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