その日は所用あって昼から出勤した。
昼ごはんを外で食べて、と思ってたので 早めに家を出た、つもりが、
犬が逃げやがった。 家は全員出払っている。
必死で犬を追いかける。 奴は呼んだら振り向くが、私が追うとしばらく私を待って、 そして、逃げる。軽やかな足取りで逃げる。 明らかに私と遊んでいるつもりでいる。
私は走るのが遅い。 奇しくも急な上り坂。 犬は私を小バカにして逃げていく。
私はこのまま仕事に行けず、犬を追う羽目になるのだろう、と 半分覚悟した。ああ、庶務になんて言おう。 ピストル持ってたら「待て!」とカッコよくあいつの足を 撃ち抜いてやるのになあ、と刑事ドラマの見すぎか 愚にもつかぬことを思いつつ (犬を撃ってカッコいいわけがなかろう) 半分諦めながら追いかけていたら、
犬の前に他の犬がやってきた。散歩中だ。
・・・・あれはうちのバカ犬が片想いをしているはなちゃんではないか。
当然の如くバカ犬は我を忘れてはなちゃんに駆け寄っていった。 はなちゃんには相変わらず相手にされていないのだが、 バカはめげない。一心不乱だ。
そして、私に捕まえられるのだった。可哀想なバカ犬。
はなちゃんから引き剥がされ、私に抱きかかえられて、 それこそバカ犬は逮捕されて往生際の悪い犯人のように 私の腕で暴れに暴れた。
け、ざまあみろ。
帰った犬はしばらく私を無視することに決めたらしく、 庭でペットボトルを噛んで、出かける私に見向きもしなかった。 しかし私も奴のせいでその日昼飯抜きである。ふん、と出て行った。
夜には、「大人げなかったな私」と反省して、仲直りしてやった。 というより奴は昼の出来事など忘れているだろう。
|