ずいずいずっころばし
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供の頃、父親があらゆる新聞、雑誌、書籍に目を通す仕事をしていた関係で家の納戸には処分すべくこれらの書籍がうずたかく積まれていた。
何ヶ月かごとに古本屋がトラックでこれらを集積していく。
一応儀礼的に書籍は古本屋のおやじが値踏みして吟味する。
子供向けの雑誌もそのなかに含まれていた。
誰よりもはやくこうした子供雑誌を読める幸せに浴した私であるけれども、同時にその至福のタネであった雑誌をこのおやじが無慈悲にも持っていってしまう憂き目にもあうのであった。
子供雑誌についている付録をこっそり隠しておくと、このおやじはするどく見抜いて、「お嬢ちゃん、確かこの本には付録がついていますよね」と言って、じろりと睨む。
母が「はやく付録を出しなさい」と迫る。
無慈悲にトラックに積まれた私の愛読書を「シェーン!カムバック!」とばかりに毎度毎度、涙声が追うのであった。(シェーンは古いっつうの!)
またあるときは、おかっぱ頭の私と父が並んでヌード雑誌を見ることもあった。
父親がこの種の本が好きであったわけではない。ありとあらゆる本に目を通さなければならなかったからだ。(っと信ずる私)
また少しもいやらしさのない裸ではあった。
幼い私は「お父さん、こっちの裸より、こっちのほうが綺麗よ」と言うと、父が「そうだなあ」などと言い合って似たような後ろ姿の親子がそこにはあった。
全く奇妙な光景だ。
そうかと思うと書きかけのシナリオをそのままに席を離れた父を目の端に置いて、そっとそれを盗み見したことがあった。それからほどなくしたある日、学校から映画を見に行ったことがあった。
気が付くとそれはあの盗み見した父のシナリオの映画だった。友人に「この話お父さんが作ったのよ」と言うと友達に信じて貰えなかったばかりか仲間はずれにされてしまった。
父はシナリオライターでもなんでもないのに不思議なことであった。
おてんばで体育会系の次姉は本嫌い。
おとなしく読書好きの妹がなぜか小憎らしく思うらしい姉は誕生日プレゼントに貰った本をどこかに隠してしまった。
悔し泣きをして降参するのをひそかに楽しみにしていた姉。
こんな意地悪にまけてはならじとじっとこらえてそしらぬふりをした私。
それから何年も経った大晦日の昼下がり、額のほこりを払おうとして絵をはずすとばたりと本が落ちた。
あの時の誕生日プレゼント「小公子」だった。
大学生になった姉にボーイフレンドが出来た。
文学好きのハンサムボーイ。
デートの話題は本のことばかりだったとか。
読書が何より嫌いな姉は困って私になきついた。数冊の本の名前を列挙してそのほんの内容と感想を聞かせてくれと言う。実は次回のデートのときにその本の話をしようねと言って別れたとか。
おやすいご用!熱を入れて解説し、感想をつけて、おまけにそれらに付随するエッセイまで紹介した。
デートは予想外に好転。「君がこんなに文学にあかるいとは思っても見なかったよ」と感激した彼はわが家に次回やってくるというところまで進展。
その後の姉と彼氏はどうなったかは聞かぬが花。言わぬが花。
本についてのエピソードは尽きないわが家。
めでたくもあり、めでたくもなし。
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