ジョー - 2006年02月12日(日) ジョー? 優しいよ。優しかったよ。 大きくって強くって、なのにこんなスウィートな人いないってくらいスウィートだった。 ジョン・レノンの超ワイルドバージョンにビリー・ジョールが思いっきり入ってて、足がとびきり長いの。遠目に見るとちょっとコワイ。だけどほんとにスウィートなの。わたしのこと「僕の人形」って、めちゃくちゃ愛してくれた。友だちの誰にでもわたしのこと自慢して、どこに行ってもわたしのこと守るように大事にしてくれた。 毎朝仕事場から休憩時間に電話くれて、会った次の朝にもう「I miss you」って深刻な声で言うんだ。わたしが電話取れないときは必ずメッセージ残してくれた。 「Hi Baby, how are you? What time are you getting off today, Baby? Are you staying in Manhattan after work? Let me know, Baby. I'll be waiting for your call, Baby. All right, Baby? Alright, Baby. Bye, Baby」 一番好きだった「ベイビィ連発メッセージ」。14日しか保存出来ないメッセージを、毎日聞いて笑った。だから覚えちゃった。声と一緒に。 いつも手を繋いでくれて、肩を抱いてくれて、歩きながらおでこにキスしてくれて、どこででも突然抱き締めてくれて、「僕の体にこうやって腕を回すの好きだろ」って。「うん、好き」って言ったら「僕も好きだよ、ものすごく」って。抱き締め合うときにこんなふうに感情が溶け合うって感じたことないってジョーは言って、わたしもおんなじふうに感じられた。 一緒に暮らしたいと思った。朝一緒に駅まで歩いたときに、「毎朝こうやって一緒に仕事に行きたい」ってわたしは言った。ジョーはわたしの気持ちのすべてを受け入れてくれて、だからそんなことも平気で言えた。「だめだよ、僕はいつもはもっとずっと早くに出掛けるんだからさ」ってジョーは言った。そして「僕もきみと一緒に暮らしたい」って言った。地下鉄を先に降りるジョーはぎゅうぎゅう詰めの中で降り際に「Bye, Sweetie」って長いキスをくれたあと、「あとで電話するよ」って手を振った。 スウィートでロマンティックでセンシティヴでエモーショナルなくせにとってもロジカルで、論理的に話が出来ないわたしはいつも話してる途中で指摘されて、くやしいけどそんなとこも好きだった。ブリリアントって言えるくらい理路整然と話が出来る人で、ジョーが話すのを聞くのが大好きだった。 だけどダメ。 わたし、100パーセント欲しかった。気持ちだけじゃなくて、ジョー全部。 ドラッグやってたこともそれでジェイルに8ヶ月入ってたことも、飲酒運転で事故してまたジェイル入りになっちゃったことも、離婚しててコネティカットに住んでる子どもたちに毎週会いに行くことも、そんなことみんな全然平気だけど、ジョーは女の人と一緒に暮らしてる。4年も。「もう愛してない。ただのルームメイトさ」って言うけど、彼女は多分まだ愛してて、だからわたしに何度もIDブロックして電話をかけて来た。「ジョーに電話かけて来ないで。ジョーに会わないで」って。 「だめだよ。友だちに言えないよ。『新しいボーイフレンドが出来たの。素敵なんだ。でも女の子と暮らしてるの』なんて」。ジョーが女の人と暮らしてることわたしに打ち明けた日、わたしそう言って笑って泣いた。 だけどそれからもわたしは電話をかけて、「もう電話くれないかと思ってた」ってしんみり言うジョーが愛おしくてまた会った。一緒に過ごす時間はやっぱり素敵で、「100パーセントきみのものになる。今すぐってわけにはいかないけど、絶対」ってジョーは真剣に言ったけど、そんな約束は切なかった。彼女の気持ちも痛かった。 ほんのちっちゃな口ゲンカをした日にそれを口実にもう会わないことにわたしが決めたのが、一週間と半分前。そして届いた初めてのメール。 今でも大好き。ものすごく会いたい。でももう戻らない。戻れない。わたし、ふつうに幸せになりたい。自分のこと可哀想って思いたくない。 ジョーはね、クラシック・ロックが好きで「ドラッグやりながらこれ聴いて育ったんだ」って、104.3にかかる曲全部一緒に口ずさめるんだ。「とんでもない過去だよ」ってジョーは自分の過去が嫌いだった。だけどジョーはいつもとっても楽しそうに歌った。わたし今じゃ104.3一番よく聴くようになっちゃったんだ。 - 天使の電話 - 2006年02月09日(木) シャワーを浴びてたら電話が鳴る。 ジョーかと思った。 ジョーはいつも朝に電話をくれたから。 ジョーだったら。そうだったらいいって思った。 びしょぬれのままタオルも被らないで電話に走る。 「Hello?」 「もしもし?」 天使のあの人。 思わず天使の名まえを叫んだら、「わかる?」ってあの人が言った声に被さった。 天使のあの人。 天使のあの人。 元気そうな声だった。 「なんかおもしろいことあった?」 「あるよ、いっぱい。でも今度ね。遅刻しそうなの。っていうか、もう遅刻してる」 「わかった。またかけるよ。早く用意して出掛けな」 「うん、ごめん。今シャワー浴びてたんだ。素っ裸だよ」。 けらけら笑ったら、「素っ裸なのかあ」って、あの人があの言い方でそう言った声に被さった。 いつだっけ。いつだっけ。最後に電話くれたの。 嬉しかった。それだけで、仕事に行く道ずっと。 帰り道は、またずっとジョーのこと考えてた。 火曜日の夜から撮影の仕事でアップステイトに行ってるジェイソンは、「メールするよ」って言ったっきり、まだメールをくれない。 今日こそ届いてると思いながらチェックする。 ない。 ジョセフ? 誰? how r u sweetie ill always hope the best 4 you 真っ黒なページに、赤い薔薇の蕾がひらくとキスマークが飛び出る。 そして。 love joe ジョセフって、ジョーだったんだ。 メールなんかくれたことなかったからわかんなかった。 ジョーって、ジョセフだったのか。知らなかった。 知らなかったなんて。なんにも知らないんだ。 微笑みがこぼれたついでに涙がこぼれそうになる。 かけちゃいけない電話をかけてしまう。 ジョーが取れない電話から留守電メッセージが流れる。 たった一週間なのに、なつかしい。 切りかけて、流れるテープの声を最後まで聞いた。 息が詰まった。 「メール届いたよ。ありがと。ほんとに、ありがとね」。 思わず残したメッセージが、ほとんど涙声になった。 メールなんかくれたことなかった。 メールなんか一度も。 メールなんかわたしに送れないはずだった。 なのに。 こんなに素敵なメール。 こんなのほかの誰も送ってくれたことない。 ジョーはいつだって、こんなふうに素敵に驚かせてくれた。 愛いっぱいに驚かせてくれた。 あんなに愛されたこと、多分ない。 デイビッドにいつも求めてたもの。 今ジェイソンに求めようとしてるもの。 あんなに愛されたのに。あんなに素直に受け止められたのに。 それだけじゃどうしてだめなんだろうね。 一番大切なことなのにね。 ねえ、また電話くれてもね、これは「おもしろいこと」じゃないから話せないよ、天使。 -
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